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「リシファ。オレはリシファっていうんすよ。よろしく、レイティシア」
「ああ、よろしくな。リシファ」
恐らく不特定多数其の他大勢は最早10にもなれば飽きているだろう、こんな些細なやり取りでさえ。馬鹿げているでもなく、存在の意味を問うでもなく。
ただ楽しいと思っている己にリシファは気付き、多少の戸惑いを感じていた。
しかし今日はあまりにイレギュラーが多過ぎる。自身の心さえ其れに釣られてイレギュラーを増産していても不思議はないだろう。
殺戮への願望は無論容易には消え去らない。何かが変質する程度で消失する類の執着であれば、とうに消え失せる機会はあった。其れを思えばリシファにとって自由な殺戮が制限される今後の生活は、不自由極まると言って過言で無い。
数日殺戮行為に及べぬだけで溜め込んだフラストレーションを思えば尚の事。
其れでも何処か今後の生活に期待とやらを抱いているリシファは、未知によって大分毒されていたのかもしれない。
良くも、悪くも。
尚、蛇足であるがレイティシアは道中リシファを殺す事はなかった。無論、僅かな気配さえ窺わせる事も。
或いはレイティシアはリシファをあの村から掬い上げた事で多くを救ったのかもしれない。其れが本人の自覚の上か、無自覚の結果か迄はリシファに推測出来る域ではないが。
単純に殺戮狂を抱えていた村を救い、そして近い将来凶悪生物として嬲り殺されただろうリシファを其の未来から救った。
当時のリシファにも今のリシファにも、勇者は人を救うものという概念は無い。
しかし其れを正しく信じ、正しく、今は穴が穿たれ中身全て漏れ出た様な胸に抱えていたレイティシアは。
其の胸に勇者は人を救うものという信念を、概念を、抱いていたのだろう。
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