勇者は人を助けます?

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 勇者は基本、人を助ける。勇者ギルドに登録し、名実共に勇者の証を得てからやる事は大抵人助け。合間に腕試しや採掘である。  そして其の人助けの精神は無論、パーティ内は勿論、見ず知らずの勇者仲間であっても基本的に向けられていた。筋骨隆々の強面、勇者ギルドより裏通りの方が似合って見える強力自慢の勇者だって同じ勇者の誰それが困っているとなると、尽力し、助け出していた。  リシファという名の勇者は、薄暗い裏通りでも分かる程、如何にも優男然としていて、A+を得る実力を如何なく発揮して、多くの村人を助け、同業者に手を貸し、魔獣を討伐しては、裏通りのトラブルを沈静してきたのだろうと思わせる。  今正に地獄に仏を見た心境のパーティだけではなく、恐らくリシファを見た誰しもが其の印象を抱き、其れを疑う事もないだろう。リシファが、人を助ける勇者の手本の様な青年である事を。 「正直全員が吸血竜から逃げ切るなんて意外だったんすよぉ。でも嬉しい誤算っすね。吸血竜に吹き飛ばされたら如何しようかと思ってたんで」 「……え?」  だからこそ彼等は、リシファが紡いだ言葉の意味が分からない。温厚そうな、如何にも勇者の手本で好青年といった微笑みが崩れて、口端だけを上げる醜悪な笑みを浮かべた理由が分からない。  パーティの全員が呆然としている中、リシファの腕が動く。僅か、左から右へ。 「え?え??」  直後、一際混乱した1人の声が聞こえるなり、凄まじい勢いで彼女の首から血飛沫が上がった。  其の赤色は容赦無くパーティに降りかかり、大小の差こそあれ彼等は全員残す事なく、かつての、つい先刻迄仲間として傍に居た少女の血を被った。  其れでも、或いはそうした異様な事態に直面したからこそか、未だ事実が飲み込めない。醜悪な笑みを浮かべ、血に塗れた剣を片手に携えて立っている青年、リシファが、何をしたのか理解出来なかった。或いは、彼等は理解したくなかった。
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