勇者は人を助けます?

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 少年が自己嫌悪と共に吐き出した拙い暴言に対し、リシファが浮べた嘲るかの様な笑顔が一瞬だけ引っ込む。目を見開き、リシファは本当に一瞬だけ驚愕を浮べた。  尤も其れは直ぐに嘲り混じりの笑顔に戻り、軽く肩を竦めてみせたのだけれど。 「いやいや。実際本当に驚いたんすよ?今迄の奴等は怯えきっちゃって、反撃は勿論、恨み言さえ言わない。ただガタガタ震えてるだけだったんす。だから睨まれるどころか言葉迄返されるのは新鮮なんすよ。其れがどんなに拙い物であっても」  パーティの中で最も頭脳戦に秀でた少年。今となってはパーティが少年を残して死滅した為、過去形ではあるが。其の少年を嘲る様に笑いつつ、何処か、ほんの僅か、リシファは心底から楽しんでいる様子も見せる。  有り体な言い方であるが狂っていると少年は思った。同時に、恐ろしい事であるし、其の結論に至った自身にさえ恐ろしさを感じるが、手慣れている、とも。  傍目には腕を左から右へ振るっただけの動作で1人の頚動脈を掻き切り。  まるで体内さえ見透かせていると言わんばかりに、心臓を的確に貫き。  剣1本で行ったとは思い難い、一種美しい程見事なまでに臓物を引き摺り出した。  昨日今日殺戮に目覚めた人間に出来る所業ではなし、血生臭い争いと常に隣り合わせている裏通りの住人であっても、殺害に関して此れ程手慣れてはいないだろう。否、此れは最早殺害と言うより惨殺ではないか。 「オレ達が……オレ達が何した、って言うの……っ。キミは、勇者なんじゃ、ないの?勇者は、人を助けるものだろ……」  少なくとも彼は、そして先程惨たらしく殺され、今や直視さえ出来ぬ骸と化したパーティメンバーも。そう信じて、それを目指して生きてきた。  勇者ギルドの役員も、勇者業に於ける先輩達も、勇者とはそういうものだと語っていたし、其処に嘘は見受けられなかった。  にも関わらずリシファは如何だ。  無抵抗の、遥かに格下だろう新米に毛が生えた程度のパーティを、笑みさえ浮べながら蹂躙しつくした。  唯一の生き残り、正しくは“敢えて生き残らせたであろう最後の1人”の前でも笑顔を崩しはしない。  こんなのが勇者であると彼には思えなかった。混乱して、悲嘆に暮れていても。これが勇者の姿であるとは、思いたくなかった。しかも全勇者の憧れだろう、高ランクが。
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