勇者は人を助けます?

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「勇者は人を殺すんすよ」  嘘だ。有り得ない。縦しんば其れが適応されたとて、リシファに関してのみであり、1個人の事を多数の様に語る事は傲慢も甚だしかろう。  あまりに突飛。或いはブラックジョークにしても度が過ぎるが荒唐無稽。其れにしても冗談を言っている様にも、加えて此方を落胆させようとして言っている風にも聞こえない。  しかし少年が何か言うより先に、リシファの表情が変わる。先程迄浮べていたのと同じ、此の場に於いては酷く不適切な笑顔。  冗談の程に明るい声。 「ま、直接的な事やってんのはオレだけかもしんねぇっすけどねぇ」  リシファは暗に此れ以上話す気は毛頭ないと語っている。そもそも少年の方とて己のパーティを壊滅させた人間と此れ以上話すつもりもない。  此の後はパーティの仲間がされた様に、残虐無慈悲な方法で殺されるのだろう。首を切られるか。胸を一突きか。臓物を引き摺り出されるか。はたまた全てか、他の手法か。  恐怖が無いと言えば嘘になるが、恐怖なんてもの少女が首を切られた瞬間に感じている。仲間が徐々に殺される内にキャパシティを越え、恐怖に対し鈍重になっている面も否めないかもしれない。  少なくとも此の儘仲間の屍骸に埋もれて時間を悪戯に消費するよりは、余程恐ろしい事ではない。  リシファは少年に歩み寄る。其の足取りは屍骸と汚物の中に於いても尚優雅で、此処が宮殿か何かの様な錯覚さえ見る者に起こさせるだろう。  仲間達の大量の血液と、恐らくは皮膚片やら臓器の欠片さえも染み込んでいるだろう剣を、これまた優美に携えて。  其の姿は正に、絵に描いた様な勇者其の物や、さながら騎士である。もっとも其れはみてくれだけで、中身はとんだ、魔獣にも劣る卑劣で残忍な獣なのだが。 「そうだ。楽しませてくれたお礼にもう1つ。冥土の土産ってヤツっすね。教えてあげるよ。……オレに鑑定魔法、掛けてごらん?」 「な、んで」 「アンタの鑑定魔法が1番正確なんでしょ?尤も此の距離じゃ関係ないかもしれねぇけど。ああ、力が足りないって言うんなら回復してあげる。此れで十分すか?」  特に呪文を唱える気配も見せずに、先の殺戮に対する無様な抵抗及び本能にも理性にも刻み込まれた恐怖から、大幅に減っていた魔力が回復されたのだろう。  体力とは別種の力が、少年の心情も無関係に満ち満ちていくのがよく分かった。
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