天使との出会い

2/4
前へ
/23ページ
次へ
「はやく、かえれってんだ」  その朝、家の近所の大きな道路で事故があった。目を背けたくなりそうなほどにひどい交通事故だった。トラックが横転したらしい、私の横を救急車がサイレンを鳴らして通り過ぎていく。  私は隣を見た。 「もういいかげんにしてよ」  隣にはくたびれたシャツを着た、三十代はじめくらいの男がひとり。 そいつは自分は天使だと名乗った。  その不審者にしか見えないことを言う男と出会ったのは二十分前。 ちょうど横転事故が起きた頃だ。私はそれの横を歩いていた。 すると前からきたこの男に呼びかけられたのだ。 「あんた……ゆくところが違うんじゃないか」  その言葉を聞いた途端。私は思わず男を睨んだ。 何故それを知ってるんだと思った。  今日私は家出を決意していた。偏差値だけはずば抜けて高い高校の制服に着替えて家を出た。しかしすぐにこっそりと私服に着替えた。秋の何でもない平日に、制服を着て歩く。この地域では目立ってしょうがないのだ。  だから駅に乗った先にある繁華街に行こうとした。そこなら目立つことはないだろう。私は姿を隠そうと繁華街に向かっている途中だった。 男は私の睨みにどこ吹く風だ。余裕のある表情を浮かべている。 「何だよ、彼女。こわーい顔してるなぁ」  全然怖がってない顔である。 「あなた、誰よ」  私は言った。  すると男はすぐに答えず、シャツの胸ポケットからたばこを取り出した。路上禁煙の道路である。ここで吸うのと目を丸くする。それにかまわず男は火のついたタバコをくわえた。  そして笑っているような顔で、軽く言った。 「天使なんだよ、俺」  ……何言ってんだ、この人。 そう思った、確実に言おうとした、でも言葉に出来なかった。  タバコをふかしている男の背中には、純白の白い羽がついていた。 黄金の輪っかも頭の上に浮かべている。 ……どっきり? いや、それにしても手の込みようがすごすぎる。 それに妹ではなく、一般人の私にする意味がない。 「信じられないなら、触ってみる?」  私は黙って頭を横に振るしかなかった。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加