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「はやく、かえれってんだ」
その朝、家の近所の大きな道路で事故があった。目を背けたくなりそうなほどにひどい交通事故だった。トラックが横転したらしい、私の横を救急車がサイレンを鳴らして通り過ぎていく。
私は隣を見た。
「もういいかげんにしてよ」
隣にはくたびれたシャツを着た、三十代はじめくらいの男がひとり。
そいつは自分は天使だと名乗った。
その不審者にしか見えないことを言う男と出会ったのは二十分前。
ちょうど横転事故が起きた頃だ。私はそれの横を歩いていた。
すると前からきたこの男に呼びかけられたのだ。
「あんた……ゆくところが違うんじゃないか」
その言葉を聞いた途端。私は思わず男を睨んだ。
何故それを知ってるんだと思った。
今日私は家出を決意していた。偏差値だけはずば抜けて高い高校の制服に着替えて家を出た。しかしすぐにこっそりと私服に着替えた。秋の何でもない平日に、制服を着て歩く。この地域では目立ってしょうがないのだ。
だから駅に乗った先にある繁華街に行こうとした。そこなら目立つことはないだろう。私は姿を隠そうと繁華街に向かっている途中だった。
男は私の睨みにどこ吹く風だ。余裕のある表情を浮かべている。
「何だよ、彼女。こわーい顔してるなぁ」
全然怖がってない顔である。
「あなた、誰よ」
私は言った。
すると男はすぐに答えず、シャツの胸ポケットからたばこを取り出した。路上禁煙の道路である。ここで吸うのと目を丸くする。それにかまわず男は火のついたタバコをくわえた。
そして笑っているような顔で、軽く言った。
「天使なんだよ、俺」
……何言ってんだ、この人。
そう思った、確実に言おうとした、でも言葉に出来なかった。
タバコをふかしている男の背中には、純白の白い羽がついていた。
黄金の輪っかも頭の上に浮かべている。
……どっきり?
いや、それにしても手の込みようがすごすぎる。
それに妹ではなく、一般人の私にする意味がない。
「信じられないなら、触ってみる?」
私は黙って頭を横に振るしかなかった。
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