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それから二十分である。
私は天使に、かえれだの、俺は導かなきゃいけないんだの、という言葉をかけられ続けていた。
天使も暇である。私を家につれて帰らなければいけないとは。
もっと重要なことをすればいいじゃないか。
天使はその言葉ににやつく。
「俺はそんなことが出来るほど……いや表舞台にたてるほど立派じゃない。天使の中じゃあ、おちこぼれだ」
私は言い返そうとしてぐっとこらえる。
天使の姿は誰にも見えなかった。
ようやく駅に着く。切符を買おうとする。
それについてこようとする天使に私ははっきりと言った。
「私、帰りませんからっ! 絶対」
するとまいったように天使は眉を下げた。
「じゃあ、どうすればいいんだ俺は」
「天国にでもかえってください」
「それも困る」
傍目ひとりでしゃべっているようにしか見えないからだろう。
周りの人がじろじろと見ていく。
恥ずかしさのあまり、声のトーンを下げる、
こんな注目を浴びたくない。
私はどうせ「空っぽ」なのだから、
天使は提案だと言った。
「しょうがない、こうしようか」
「何よ」
「今日は何もしない、あんたの好きなとおりにやればいい」
私はその言葉にかみつく。
「あなたの許可なんていらないでしょ」
「でもついていくから、見放さないからな」
「はぁ?」
天使はどこ吹く風という顔である。
私は納得いかず。
「何でよ」
低い声で言うと、天使は聞いてないようだった。あらぬ方向を見ている。いらっとしながら、天使の見ている方向を見る。
すると黒い影が見えた。
のっそりと動くそれは白い仮面をつけている。
仮面はこちらを見た。目が合った。
背筋に生理的な嫌悪が走る。気持ち悪い虫を見たような、見たくないものを見てしまったような……そう思った瞬間、距離を詰められた。
目の前に仮面、まとわりつく肉の腐った匂い。
血の気が引いた。
「コッチニオイデ……」
仮面は顎をはずし、大きく口を開ける。
「やっ……!」
食われると思った。それと同時に、銃撃音が響いた。
「lost!」
気づいたら天使は煙がたなびく拳銃を持っていた。
仮面のそれは地面にひれ伏しうめいている。
的確に頭を撃ち抜いたのだ。私は唖然とする。
天使は吐き捨てた。
「やめろ……このこはかえるんだ」
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