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私は思わず天使ににじり寄っていた。
仮面のそれ……いやバケモノに近づきたくなかった。
これはよくないものだ、近づかれただけで心が怯えてる。
目の前で恐怖をつきつけられた。
腐りゆく生首を見せつけられ、なすりつけられたようなものだ。
声が出ない。
体験したことのない事態に、体がついていけなかった。
そんな私に天使は力を貸し、駅から連れ出した。
天使の姿は誰にも見えない。
きっと傍目、私は変な移動をしていただろう。
でもそんなことを気にする余裕はなかった。
駅から少し歩いた先に、大きな公園があった。
さまざまな店が公園内にあり、そのためいつ来ても、人でにぎわっている。
その公園のベンチに天使は私を休ませた。
「大丈夫か?」
私はゆっくりと息を整える。何度も呼吸がつまりせき込んだ。しかし時間の経過で、何とか落ち着きを取り戻す。
「何……あれ?」
私はバケモノを撃退した天使に聞いた。
「アレは悪いものだ」
「悪いもの? どう悪いの?」
天使は二本目のタバコに火をつけた。
「魂を食らう、魂食いなんだ……孤独にさまよってる魂を見つけると、食いにくる」
「え……」
「食われたら最後だ、あんたもあのバケモノになってさまよい続ける」
私は息を飲んだ。
「それは……嫌……」
「だろ?」
天使は私の言葉に頷いた。
「だから、俺から離れない方がいい」
私は黙り込んだ。すぐに反応を返せなかった。
天使なんていても困る、困るけど、バケモノに食われてしまうのはもっと困る。
私はしぶしぶと頷いた。
「分かった、じゃあ離れないで……」
天使はもちろんと言った。
話は決着した。
私と天使の間で起きていた、かえれ、帰りたくない戦争も一時停戦を迎えたのだ。
天使はほっとしたように、固い表情を崩して笑った。
それは見た目年齢に釣り合わない、けれど目を惹いてしまうような、無垢な笑みだった。
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