目覚め

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目覚め

「目覚めよ」 嫌だ、寝かせてくれ。眠くて仕方がないのに誰かの声が頭に響く、今は起きたくないので6時間くらい後にしてほしい。 「目覚めぬか!」 お風呂にでもいるのだろうか、声が反響していてうるさい。放っておいてほしい、寝る事に忙しいんだ。 「さっさと起きろ馬鹿者、この空間で寝続ける馬鹿など初めて見たわ!」 「うるさい、やっと仕事が終わって休みが来たんだ、少しくらい寝かせてくれたって良いだろ」 デスクワークに資料室の整理、先輩も同期も立て続けに仕事を辞めて、おまけに新入社員は別の関連会社に引き抜かれ、緊急でやらなきゃいけない仕事を片付けて、やっと解放されたと思ったらいつのまにか3ヶ月経っていた。 「全力で仕事を頑張ったんだから、自宅で一日中寝るなんて幸せを噛み締めたってバチは当たらな……」 待て、あの仕事の後に自宅に帰った記憶がない。 「ようやく気付いたか…貴様、仕事が完了すると同時に死んだぞ」 「は……?」 死んだと言ったか、確かに最後の仕事を終わらせた後に急激に眠くなったが、痛みや苦しみと言ったものが全くなかったので死んだと言う実感が持てない。 「神だって週一で休むであろう、貴様は働きすぎだ」 「はっ……ははっ…マジか……」 ひどい寒気、唇が震えて吐き気すらする。 享年25歳、子供や妻はいないが守るべき者はいた。 「そうだ、家族…俺の家族は無事なのか!?ペットだけど、大切な家族なんだ!!」 「ほう、自分の心配よりもそちらが先か」 黒い家猫のクロ、灰色シベリアンハスキーのギン、種類は不明だけど白いキツネのハク、俺はこいつらのためだけに生きていた。家に帰りご飯をあげて、ブラッシングする癒しの時間があったからこそ今日まで元気をもらっていた。 最後にもふもふできなかったのは心残りだが、それよりもあいつらが幸せに暮らせるかが心配で死にきれない。 「だが残念だな、貴様以外の人間には懐いていないようだ。引き取りに来た人間に全力で噛み付く危険生物、殺処分も時間の問題だろうよ」 「そんな……」 殺処分、許せない言葉ナンバーワンだ。このままでは死に切れない、化けて出てやると言う気分が今ならわかる。 クロは子猫の時にカラスに襲われていた所を保護した、お腹に大きな傷のある可哀想な猫だ。 ギンは元の飼い主に赤ちゃんができて飼いきれなかなった所を譲ってもらった、赤ちゃんに甘噛みをしている所を襲っていると近所の人に勘違いされて殺処分手前のところであった。 ハクはキツネのブリーダーを目指していた友人に珍しさはあるもののなかなか数が売れないと言われて30万円で買い取った、無いとは思いたいが行く先がなければ友人の食肉にされていたかもしれない。 三匹とも死ぬかもしれないを経験したのだ、これ以上可哀想な思いはさせたく無い。 「変な奴だ、ソヤツらも死ねば共にいれるとは思わんのか?」 「それは……なんか違う、うまく言えないけど…」 人間にも言える事だが命は途切れさせてはいけない、壮大にも聞こえるが全ては誰かに愛されるべきなのだとおもう。ただし、個人的に虫だけはお断りだ。 「ふむ、生きた意味を求める面倒な輩よりはいくらかマシだな」 「生きた意味…」 この謎の声の管轄では若くして死を選んだ人間や、道半ばで死んだ者には少なくないらしい。管轄と言う言葉に引っ掛かりを覚えるが、謎の声曰くソウイウモノ、らしい。 「生きる事に意味など無く、意味は生きた抜いた後に付いてくる。貴様の生きた意味、存外悪くない評価だぞ」 なんと答えれば良いものか、普段から考えている事とスケールが外れているのでよくわからない。 「と言うわけで貴様、生き直せ」 「は?」 どう言うわけだ、話の繋がりが見えない。 今鏡を見れば滑稽な男ランキング上位に入るかも知れない顔がソコにあった事だろう、謎の声が言っている内容が一ミリたりともわからずに呆然としてしまった。 「貴様の稼いだ財と成し遂げた実績をもってすれば、多少なりとも幸せな二度目の人生が約束されるだろう。喜べ、ゲームで言うところのステータスに振り分けるポイントが少しだけ多いと言う奴だ」 「はあ…」 なるほど、全くわからん。一般社畜サラリーマンにもわかる説明をして欲しい、偉そうな態度の謎の声に褒められているっぽい事だけは理解したがそれだけだ。 謎の声は二度目の人生とか言っていたが、昔流行っていたアニメにそんなものがあった気がする。それと同類なのであれば、ろくな事にならないことは必至である。 「良き血筋の生まれにするか、良き友人になりそうな者のいる地域に降り立つか、食べ物に困らない環境で生活するか、願望を言ってみろ。このまま死ぬのは許さぬ」 どうにも説明をしてくれる気は無いらしい、理解ができない事にイエスと言えるほどの神経は持ち合わせていないので断片的でもいいので情報を聞き出す事にした。 転生と言うシステムが存在し、それは何かを成し遂げ若くして死んだ者を救う為のシステムだと言う。 このシステムは謎の声によるオリジナルのシステムでは無く、多くある中の管轄の一つがこの空間らしい。所謂死んだ際のお役所の一部と言う物らしいが、謎の声自体は趣味でやっている事でありお役所の仕事と関係があるのかは謎である。 何故俺なのかについては功績があるのに人並みの享楽も知らずに死ぬのは可哀想だとして、本人の意思とは全く関係無く転生させるつもりでここに呼んだと言う。 「さぁ希望を願望を言え、明確な敵が必要ならばそんな世界に送ってやってもいい。願いはポイント制に近い、有限を忘れていなければ融通してやろう」 なんとも難解な言い回しをしてくれる、実は謎の声の主は他人と会話をするのが苦手なのでは無いだろうか。 願いはポイント制、これはおそらく成し遂げた功績の分だけ貰えるものだと思う。俺が何を成し遂げたなどは知らないが、少し無茶な希望には答えられるみたいなので結構な事をやらかしていたらしい。 「それは…自由に使って良いものか?」 「貴様の物なのだからそれは個人の自由だとも、強欲に行くくらいが丁度良い。安寧か?戦いか?」
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