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貧民街
俺はブンジロウ、13歳ほどだ。
気が付いた時からスラムで暮らしている孤児という奴で、ボロ布で身を包み食料を求めて徘徊する虚ろな目をした人間。この世界では何処にでもいる一般的な貧民、格差が生まれやすい大きな国にはよくあることだ。
皆んなが平等をうたって皆んなが貧民なる様な国よりかはいくらかマシなのだろう、はっきりとした格差があれば犠牲が少なくて済むのだと近くに住む安酒をあおる老人が言っていた。
「クソッ…はらへった……」
追って、殴って、食べる。
追って、殴って、食べる。
干からびながら死ぬかも知れない恐怖、飢えたくない一心で毎日食べられそうな魔物を片っ端から追いかけていた。
しかしそれも限界か、最近は獲物が全く見つからない。原因はわかっているが俺にはどうしようもない、平民街に魔物討伐用の集まりが出来たのだ。ギルドとかいう名前だった、平民が貧民街付近の獲物を横取りするようになったのだ。
4日間は水で我慢していたが視界が左右し手が震えてきた、飢えが始まったみたいだ。このまま干からびて死んでしまうのだろう、スラムでは良くあることだ。
「少年、これを」
「ははっ…キシさまが、しかも女がこんなとこにくるもんじゃねぇよ…わるい大人に、さらわれっぞ…」
杖と剣が合体した様な国のマーク、そのマークが入った金属の鎧で身を固めた女性が俺の傍にバスケットを置いた。顔が隠れるタイプのヘルムを被っている事から、そこら辺に溢れている騎士よりも上だと言うのが何となくわかるくらいで他はわからない。
「ふふっ、口の悪い少年。でも、ありがとう」
それだけ言うと騎士は足音も少なく去っていく、戦いに慣れていそうな身のこなしだ。
しかしありがとうか、何に感謝を表しているのだろうか。この地域では当たり前の事、女がいれば老人でもない限り悪い大人に連れて行かれるのだ。一度は優しくしてくれた女の人もいたが、連れてかれてからは行方不明になっている。
今はそんな考えはどうでも良いか、食べなければ死ぬのだ。俺は置かれたバスケットを開き、包んである布を解く。中にはフカフカのパンに生の魚や野菜などを挟んだものが入っていた。
「これは……」
貧民では絶対に口にできないものだ、なにせ腐りやすい食材が生の状態でこれでもかと挟まれている。
「はぐっ……うまい…」
塩気もある、まれにゴミに紛れて来るくらいで滅多に口に出来ない味覚だ。なにより次の日腹痛になる様な臭いがしない、ほんのり温かいパンが新しいものだと香りで主張している。 比較する事こそおかしいのは理解してるがゴミとは比べ物にならない、比較出来るものを他に口にしたことがないのだ。
俺は夢中でそれを頬張り、喉に詰まらせながらも全て平らげてしまった。
「ふぅ………食っちまった、かえす金もねえのに食っちまった…」
大人は目的のためなら汚い手段を使う、罠かも知れないと気付いたのは食べ終わってからだ。
バスケットを置いていった騎士、大人の背丈か怪しいものだったが性別や種族の違いもあるだろうから大人と思っても良いだろう。
対価として俺に何をさせるつもりか、金目のものなんて金属の棒しか持っていない。スラムの物知り爺さんは金属の棒を杖と言っていたが、魔法が使えるはずの杖としての機能は一切無いそうだ。魔力を溜め込むための結晶石は付いていない、殴れば木の棒よりかは強い、ただそれだけだ。
「はやく、食いものとりにいかないと…な…」
お腹が満たされて体が安心してしまったのか瞼が重い、陽がある内は狩りをする時間と決めているのに体が動かない。今日はゴミ漁りだってやってない、太陽が真上に来る前にゴミ置場にいかないと誰かに先を越されてしまう。
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