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翌日、いつものように雪が降りしきる庭先に現れた八千代は、僕が声をかける前に飛び付いてきた。
「たろ、やったよ。かかさまに、たろが結婚しようって言ってくれたことを話したら、山を移らなくてもいいって。幼いやちよを残していくのは心配だけど、約束したなら守らないといけないからって」
「やった、やった。でも、ちよのお母さんたちは、違う山に行ってしまうの?」
「うん、そうだって。でも、寂しくないよ。だってやちよには、たろがいてくれるもん」
八千代と手を取り合ってはしゃぎ、短い小指を絡め、額を寄せて約束した。
「僕は、ちよをお嫁さんにする」
「やちよは、たろの嫁御になる」
その夜から、八千代は僕の家で生活を始めた。
例にもれず、食事や寝床は用意してもらえなかったが、八千代はきれいな水を飲むだけで腹がいっぱいになったし、夜は温かくする必要がなかった。
他の人間に見えないのをいいことに、八千代はどこにでもついてきた。
四六時中一緒で、楽しくてたまらない日々だった。
思い出の中で、僕も八千代もいつも笑っていた。
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