たろとちよ

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 あちらこちらで立ち話をするうちに心に懐かしさが溢れて、子供に戻った気になった。 我が家の古ぼけた門をくぐり、敷居を跨いでも尚、いたずら心が抜けなかった。 遊びの延長でおどけて「ごめんください」とよそ行きの声を出すと、奥からとたとたと足音を立てて、ころんとした影が現れた。 「おやおや、どちらさんかと思ったら、見覚えのある子が帰ってきたこと」 「ただいま、母さん」 「おかえり悠太郎。向こうでちゃんと食べていたかい? なんだか痩せた気がするねぇ」 「僕が痩せぎすなのは昔からのことだよ。きっと父さんに似たんだ」  玄関に上がると、どこからともなく風が吹いてきた。冬の欠片を含んだ冷風が髪を揺らす。 「早くお上がり。相変わらずこの家は寒いんだ、暖かい部屋へお行きよ」  短い指をこすり合わせる母に頷き、風が吹いてくる方へ顔を向けてここに来た目的を思い出す。 弱々しい春の日が差し込む平屋を、冷風が我が物顔で行き来する。 覚えのあるその感触に、胸がさわりと疼いた。  近況報告も程々に、僕はひっきりなしに手足を撫でる風の誘いに乗った。 足の裏を痺れさせる冷たい廊下を歩き、居間を抜け、客間を覗き、途中神棚に手を合わせ、風の気配を追う。 この家のどこかで手招きをする、あの子に導かれるままに。  台所を覗くと、母が料理の手を止めて首を傾げた。 「悠太郎坊ちゃんは一体何をお探しかな。さくなら今しがた出て行ったよ」  さくとは、昔から家に住み着いている三毛猫である。年をとってもあまり大人しくはならず、毎日のようにねずみを捕ってくるらしい。 「さくを探しているんじゃないよ。懐かしい家の中を見て回っているんだ」 「大して変わっちゃいないのにねぇ。まぁ減るもんじゃなし、好きなだけご覧」  周囲に渦巻くいたずら風は、くすくすと笑うような音で耳元をくすぐり、奥へ奥へと誘い込む。 それに手を引かれ、背中を押されるうちに、自室として使用していた六畳間へと辿り着いた。 *
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