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会議室を出ると彼は僕の元へととんできた。僕の編集のおかげで面白くなったと無邪気に喜ぶ彼の笑顔に、僕は久しぶりに向き合えたような気がした。そうだ、僕と彼は対等、いや、むしろ僕のおかげなのだ。彼の気遣いを糧に、僕は自分の自尊心を慰める。こんな事を考えている時点で、彼の人間としての魅力に僕が負けている事は明らかなのであるが……
偶然の産物とはいえ、僕は、編集長からの信頼も、パチンコライターという仕事も、そして5年間共に歩んできた彼という仲間も失わずに済んだ。幸運にも僕の自尊心も傷つかず、また彼を傷つけることもなく歩める道が見つかったのだ。
僕だってすぐには変われない。でも、この幸運を手放してはいけない。直感的にそう感じた僕は、目の前で笑う彼に対して一月振りの笑顔を返した。今は笑顔を作って返す事が精一杯。でも、この笑顔をいつか本物にしようと僕は決意した。
そして、今日も僕は彼と一緒に撮影店舗に笑顔で向かう。僕と彼は本当の意味で共に歩き出したはずだった……
「おい、おまえ、聞いているのか?」
怒声が僕を一瞬正気に戻す。目の前には顔を真っ赤にした編集長。窓のない閉鎖的な会議室は、僕の心をますます内側へと閉じ込めていった。
「おまえどういうつもりであんな動画を編集したんだ、俺達に恥をかかすつもりか」
絶え間なく続く編集長の怒鳴り声を聞きながら、僕は再び目を閉じた。そう、僕と彼は本当の意味で共に歩き出したのだから……
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