パチンコライターの僕と彼

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 編集長が去った会議室には、僕と彼だけが残っていた。編集長の話を総じて言えば、僕より彼の方がパチンコライターとして面白い。だから僕ではなくて彼が指名されたという事だ。確かに彼の書く記事は僕よりもたくさんのコメントを読者からもらい、いつも僕より良い評価を受けていた。同じ事を書いても彼の文章だけが評価され、僕の文章は叩かれるのだからきっとそうなのだろう。そんな事は言われなくてもわかっている。僕は何度も自分に言い聞かせようとするが、その一方にはそれを認めたくないもう一人の僕がいる。そして、そのもう一人の僕の自尊心は、僕だけが一方的にライバルだと思っている彼の目の前で客観的に上下を決められた事によって、粉々に打ち砕かれたのだ。よりによって、彼の前でだけはそれを言われたくなかった。彼と僕は対等だというくだらない自尊心だけが僕の心を支配して、本来真っ先に口にすべき祝福の言葉を僕は口にできずにいた。  編集長が会議室を出てから三十秒ほど経っただろうか。黙り込む僕の心の内を知ってか知らずか、彼は僕に向かってこう囁いた。  「俺は面白くはやれないからおまえの編集だけが頼みだな」  無邪気に笑った様子を見るに彼の言葉は本心からだったのかもしれない。その後も彼はいくつかの言葉を発したが、僕にはそれを受け取る余裕はなかった。彼があの時何を言ったか、今となっては僕は覚えていない。  木枯らしの吹き荒れる帰り道。両手をコートのポケットに突っ込み歩くその道はいつもよりも冷たく、灰色に見えた。小雪がちらつく街の中で震える木々を横目に僕はそっと呟く。  「僕の方が面白い」  その声は誰にも届く事なく、ただ消えていく。舞い落ちた雪がアスファルトに触れると同時に消えるその姿に僕は自分を重ねていた。次の日も、その次の日も……
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