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その日の夜、帰宅した僕は撮影した動画を振り返る。
「本日のパチンコ実戦機種はみなさんもごじょんじの超人気機種……」
また噛んだ。
「このパターンから大当たりする確率は九十パーセント以上、激アツです」
正確な確率は九十五パーセント。動画を振り返れば、そんな彼の些細なミスばかりが目についてしまう。今までの、同期として共に励まし合い、パチンコ業界を盛り上げようと夢を語った二人の関係の中では一度も経験した事のない感情だ。
「やはりこれが本当の実力。僕だったら……」
僕はそう呟いてハッとする。どうしてこうなってしまったのか。原因は明白であるにも関わらず、それを認める事がまたさらにその感情を加速させるのだから質が悪い。僕はその事を考えずに済むようにとひたすら作業に没頭した。
動画の編集作業は大きく分けて二つの作業がある。カメラに映ってしまった一般客の顔にモザイクをかけたり、パチンコを打っている中で見せ場のない静かなシーンをカットしたりといった単純作業と、各シーンに機種の情報や実戦状況の説明を加えるテロップ入れの作業である。前者は地味で雑用じみた作業で、しかも膨大な手間と時間がかかる。一方、後者は唯一この仕事で僕が僕としての存在を示す事ができる部分である。つまり、僕が僕自身の言葉で動画に加えるこのテロップだけが、他の誰でもない、パチンコライターの僕が動画の編集を行う理由であり、これがなければバイトのおにいちゃんに作業をさせても同じという事になってしまう。
だが、僕はその大切な機会を自分の自尊心を維持する為に使ってしまった。彼の些細なミスを咎めては、小バカにするようなテロップを入れ、ツッコミどころばかりを探してシーンを抽出した。本当に実力があるのはどちらなのか、誰でもいいから真実に気付いてくれ。本当の彼の姿は一番傍にいた僕だけが知っているのだから……
そんな気持ちで僕は動画に映った彼をいじりまくったのだ。
「パチンコライターにあるまじき粗相連発のネタ動画」
僕は最後にそんな煽りを付けて作業を終えた。いや、正確に言えば、作業机に突っ伏し、いつのまにか眠りに落ちていたのであるが……
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