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デスクに戻ると真崎がいた。自分の荷物を整理し終えようとしていた。 政治部の仲間は一人もおらず、静江と真崎の二人だけ。静江のヒールの音も座る音も遮るものは何もない。なのに真崎が振り向くことはなかった。 静江は立ち上がって、何か一言くらいは言おうと思った。だけど、言うべき言葉が見つからず、待ちぼうけをくった女のように立っていた。 真崎が席を離れて、静江のほうへ歩き出す。そのまますれ違っても二人の間に言葉は生まれてこなかった。だけど、真崎が通り過ぎあとに遅れて感じ取ったセブンスターの匂い。 静江の心を激しく揺さぶった。 翠との関係が終わったんだと思った 「煙草、やめたんじゃなかったの?」 こんな場面でも、乾ききった静江の言葉遣い。まるで会議中にミスを指摘するようなきつい言い方だった。翠のように甘ったるくて、少し湿っぽいくらいの声色を出せたらと後悔した。だけど、身についたその性格を変えられるはずもなく、同じ調子で繰り返すことを恐れて、言葉が続かなかった。 その間、ただ黙っていた真崎。突然振り返って、静江の前に戻って来た。 その表情はひどく冷たく、瞳の奥に深い闇が見えた。 「全部ウソだから」 そう言って、真崎はフロアを出ていった。 全部ウソとはどういうことなのだろうか。煙草をやめたってことがウソ? 全部って何? 考えようにも、静江の頭は回らなかった。 そのまま一日が終わり、一週間が過ぎて、あっという間に三カ月が経った。
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