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会社を辞めると思っていた翠は、相変わらず神経に触る声色を使っていた。結婚もする様子もなく、お腹の大きさも変わらなかった。 真崎の最後の言葉が蘇る。 「全部ウソだから」 静江は翠を問い詰めた 「付き合ったっていうのはウソなの? 結婚はウソなの? 赤ちゃんは?」 「あぁ、あれ全部ウソだから」 翠は今さら何言ってんのって態度で、静江よりも自分の剥げかけたネイルに気が向いていた。 「どうしてそんなウソをついたの?」 静江は翠の腕を掴んで、すがり付くように問いかけた。 翠は呆れながら、教えてくれた。 「あんたの出世でしょ」 それはわかりきっていた答え。だけど、それをうやむやにしたのは、真崎が男だから。 女の嫉妬は、自分の感情を相手にわからせてやることが目的。陰湿であってもハッキリしている。 男の場合は、プライドとか世間体を飾ろうとするから、その本質を隠したがる。靄がかかっていたものがハッキリと見えた。その答えが単純すぎて、苦しめていた未練まで消えた。 「そういえばこの前、真崎さんから電話があって、会社のことあれこれ聞かれたの。絶対あんたのことが聞きたいくせに言い出さないから、イライラして私、あんたが次局長に出世したってウソついたの。そしたら、どうなったと思う? あの人、吉田さんと佐藤に電話して確かめてんの」 翠が嬉しそうに語る真崎の哀れな姿。 静江が次局長に出世していないとわかったことで、真崎の心は救われたのだろうか? 少なくとも翠にからかわれたことを知って、惨めな気持ちになったに違いない。 静江は騒がしい翠の頬を遠慮なく叩いた。それは真崎のため。だけど、真崎がそれを知ったとしたら、女の同情を受けたと思って男のプライドが傷つくのだろうと静江は思った。
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