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静江はデスクに戻ると、翠を呼んで総理番につくように指示を出した。 総理番は首相に付きっきりの仕事。聞こえはいいが、基本的に新人が担う仕事だった。 キャップだったこともある翠には屈辱の人事。そんな露骨で惨めな嫌がらせをしたのは、プライドよりも、翠に対する嫉妬が上回ったから。 だけど、翠の反応は予想を裏切った。 微笑んだのだ。そして、そのままデスクを離れた翠は真崎のもとへ向かうと、その右肩に手を置いた。 反射的に振り向く真崎。その頬に翠の突き出した指先が刺さる。 無邪気に微笑み合う二人。些細なイタズラを見せつけられた静江の心が激しく震えた。 頬が強張るのを感じて、隠しきれなくなった感情。静江は喫煙ルームへ逃げ込むと、落ち着かせるために煙草に火を点けた。 静江の愛したセブンスターの匂いが体の中に染みわたる。だけど、いつものように癒されるどころか、動悸が激しくなっていく。 こんなところで静江は泣いてしまった。しかもそのタイミングで現れたのが安田だった。 欲望にまみれた安田の手が静江の肩に触れる。 「一人地方へ飛ばそうと思うんだが、君は誰がいいと思う?」 安田がここへ現れたのは、静江と翠のやり取りを見ていたからだ。あのときの静江の強張った顔を見てすべてを悟り、手のひらで弄んでいるつもりなのだ。 静江がそんな薄汚い誘惑にすがらずに済んだのは、自分を孤立させた原因を作ったプライド。 「私に決める権利なんてないですから」 そう言って立ち上がった静江。 「強がるね」 安田の言葉を背中で聞いた。顔は見ていなくても、笑っているのはわかった。
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