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デスクへ戻った静江に、沸き起こる後悔。それを増長させるのは、翠の声色だった。 記事を書いていても、打ち合わせをしていても、どんなに目を背けようとしても、あの声色を遮る術はなかった。 頭が痛くなる。ため息が止まらない。どうにかなってしまいそうだった。 デスクに戻って来た安田が目に留まる。静江は気にするまいと意識することで、逆に視線が向いてしまう。その度に目が合ってしまって、とっさに背けても、捕らわれたように目がいってしまう。 安田の笑顔を見る度にイラ立ち、翠の声色が神経を逆なでする。 そんな一日を一週間ほど繰り返したある夜。 大きな事件も起きず、平穏なままその日の仕事が終わって静江は会社を出た。 すると、静江の前を真崎と翠が歩いていた。翠が真崎の腕に絡みついている姿は、二人とも30歳を越えていることを思えば、痛々しく見え、真崎が嫌な思いをしてると思った。 静江は真崎が人前で腕どころか、手を繋ぐことさえ不快に思うことを知っていたから。街でそんな恋人たちとすれ違うたびに、軽蔑した言葉を聞かされた。だから、静江は一度も手を繋がなかった。常に自分側の真崎の手がポケットに納められていたことに寂しさを押し殺していたけれど。 二人が汚ならしい居酒屋へ入った。 静江はそれを見てホッとして、優越感にも浸った。 自分を連れていった三ツ星とはえらい格差だったからだ。 真崎にとっての翠の価値が見えた気がした。 静江は真崎が煙草をすぐに吸い始めるだろうと思った。
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