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子供という言葉以上に、2ヵ月という言葉が静江を引き裂いた。 「いつからそういう関係なの?」 「半年前くらい。すまなかった」 真崎の心が自分から離れた原因が出世だと思っていた。現実はそれ以前から翠の方へ心が向かっていた。 静江は咎める気力すら失って、打ちひしがれたままタクシーに乗った。 その帰り道、安田からの電話が入った。寒気がするようなタイミング。電話に出た静江は一つだけ、あるお願いをした。 「君が望むのなら」 気取った安田の返事に静江は、無感症を装って運転手に行先の変更を告げた。 それから一週間ほどして、人事異動が掲示板に張り出された。 行先は北海道支局。 該当者に記された真崎の名前。 静江はそれを確認すると喫煙ルームへ向かった。いまだに吸っているのはセブンスター。その匂いはかつて彼女を癒してくれていた。 でも今は違う。何も感じないのだ。 真崎の家へ向かったあの日。タクシーで変更した行先は安田の家。 あの気取った男の肉欲を満たすために抱かれた静江は、朝になって真崎の匂いを感じ取って目が覚めた。すべてが夢で、ようやく現実に戻ったのかと思った。 だけど、彼女の横にいるには真崎じゃない。煙草を吸いながら朝刊を読んでいた安田だった。 その安田が吸っていた煙草がセブンスター。 静江は今まで安田が真崎と同じものを吸っていたことに気づいていなかった。しかも同じはずなのに、真崎から漂う匂いには癒され、安田には不快としか感じなかった。 「ちょうだい」 静江は安田の吸っていた煙草をもらうと、その煙を体内に染みわたるように吸い込んだ。 安田の肉欲でまみれた強烈な匂いで、真崎に対する罪悪感を打ち消したかった。 静江が喫煙ルームから出ると、真崎の異動に対して、非難の声が上がっていた。 それは静江が安田の力を使って、真崎を飛ばしたという情報が広まっていたからだ。 静江の出世が安田の力にあることが周囲もわかっていた以上、当然の話だった。 冷ややかな視線と、人影から放り込むような静江への暴言。 静江はそんな声を気にするそぶりも見せずに、コツコツとヒールを軽快に鳴らして、頬を強張らせた翠の目の前をわざと通り過ぎていった。
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