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長崎物語
江戸前期、今から三七五年ほどの昔、長崎で大きな貿易商を営む理右衛門の家に、お春という娘がいました。お春は未だ十三歳と幼かったのですが、肌の色は透けるように白く、鼻筋の通った高貴な顔に、大きな瞳は深い湖の色のように青く澄み、とても美しい娘でした。
お春の母親はポルトガル商船の航海士であったイタリア人ニコラス・マリンと結婚し、お春を生みましたが、産後の肥立ちが悪く、お春を生むと直ぐに亡くなってしまいました。父親のニコラスも妻を亡くした悲しみで、お春を祖父にあたる理右衛門に託し、オランダに帰ってしまったので、お春は理右衛門の子供として育てられました。祖父の理右衛門はお春を目の中に入れても痛くないほど可愛がり、大切に育てていました。
寛永十六年、六月に発布された第五次鎖国令によりキリスト教を禁止した徳川幕府は、オランダを除いて外国との貿易をやめ、西洋人はすべて国外に追い出していました。さらに西洋人を親に持つ混血児も日本にいてはいけないという、おふれまで出しました。そのおふれで、長崎じゆうの混血児は次々に奉行所に集められました。
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