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たばこ
「俺は、お前を幸せにできへん」とは、よく言ったものだ。
いつもと変わらず伏し目がちに煙草をふかしながら、まるで、生きていることに未練なんてないようなフリをしてそう言った彼のことを今でも鮮明に思い出せる。
あの頃の彼を思い出して、ふっと口角を上げると、私は窓の外に広がる雨空を見上げた。
私は彼に、幸せにしてくれなんて頼んだ覚えはない。ただ、辛い思いはしたくなかった。それだけだった。
私にとって、彼と一緒に居られないことがどれだけ辛くて苦しいことか。
それを知らない不器用な彼は私に大きな傷だけを残すと、揺らめきながらすうっと空気に溶け込むあの煙のように消えていった。
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