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「え、この後ひとりで春ヶ瀬に行くって?」
タカハシは牛丼を口いっぱいほおばったまま、小刻みにうなずいた。
春ヶ瀬は河川敷を利用したかなり広い公園だ。
人が通りそうなところには街灯があるが、少し外れると灯りも人気もない。
「なんでよ」
「……流星群」
タカハシは牛丼を飲み下して短く答えた。
「あー、なんか朝の番組で言ってたような気がする、けど、そうじゃなくて、こんな時間であんなとこにひとりで行くって本気で言ってんの」
「本気もなにもただ星を観るだけだって」
タカハシはお楽しみの半熟卵を小鉢から丼へと移すのに集中していて、まじめに聞いちゃいない。
「ホームレスいるし、暴走族みたいなのもたまにいるじゃん」
「まあそうなんだけど、大丈夫じゃない、たぶん」
半熟卵の黄身に箸をいれてることに気持ちが向いているタカハシは、おざなりに答る。
「いやいやいや、危ないでしょ普通に、夜に人気のないとこに行くとか」
「人気のないとこっていうか、暗いとこ行きたいんだよ」
「一緒だろ、しかもひとりで行くとか怖いって思わないわけ」
「うーん、特に。星を観たいとしか思ってないけど」
この調子だとどこまで行っても平行線だ。
そもそもタカハシに僕がなにかをあきらめさせるなんて不可能に近い。
それにタカハシは高校時代まで空手をやっていて、全国大会に出場できる手前まで行った腕前だ。
僕もふくめた並の男より強い。
だからといって、ひとりで行かせるわけにはいかない。
「俺も行く」
「どうぞー」
黄身をからませた牛肉という好物を目の前にしたタカハシは上機嫌で答える。
「そんな心配しなくていもいいのに。何もないって」
「あってからじゃ遅いだろ」
「心配症だな。まあ、別にいいけど」
いつの間にか牛丼を食べ終わったタカハシは、湯呑みを片手にすっかりくつろいでいる。
「店出たらすぐ行くから。そのままでいいの?夜はけっこう寒いよ」
と言うタカハシは薄手だがダウンの上着を持っている。
かばんもいつも持っているトートバックではなく、アウトドア用の大きいリュックで準備万端のようだ。
僕はと言えば長袖のTシャツに長袖のシャツ。昼間は十分だが夜は心もとない。
しかし、ここで家に帰ってはタカハシにまかれてしまう。
「このままで大丈夫だよ」
「じゃ、行くか」
タカハシはリュックを背負い、ごちそうさまでしたとカウンターに声をかけると店を出た。
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