第1章

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自転車置き場に向かうと思いきや、河原の方向に歩き始める。 「あれ、自転車は?」 「ない。パンクした。歩く」 僕は急いで自転車をとりにいき、押してタカハシを追いかける。 「けっこう遠いけどいいの?乗る?」 「いい、歩く」 タカハシは前を向いたまま答える。 空気は冷えてきたが、幸いに風はない。空には雲もなく、細い月とまばらに星が瞬いている。 タカハシは空を見上げて何も言わずにずんずん歩いて行く。 ぱっと見、怒っているようにみえるがタカハシは普段から余計なことはあまり話さないし不要な行動もしない。目的にむかって一直線だ。 僕も特になにもしゃべらずに、自転車を押してタカハシについていく。 10分ほど幹線道路を歩くと橋が見えてくる。橋のたもとから、土手と河原へと降りていく舗装されていな道が続いている。 幹線道路は道路灯とひっきりなしに通る車で明るいが、土手と河原に照明はほとんどなく闇に沈んでいる。 タカハシはリュックを前にかかえると、ニットキャップとヘッドライトをとりだし頭に装着する。 僕もハンドルの真ん中に取り付けてあるLEDライトをつける。 歩くのに困らない程度には明るくなったがほんの4、50cmまでで、その先は真っ暗だ。 タカハシをひとりで行かせられないと思ってついてきたけれど、万が一不審者が出てきたとしていったい僕になにが出来るというのか。 単純に女ひとりでいるより、ふたりでいるだけで抑止にはなると思うが一緒にいたところで僕が足手まといになるだけじゃないか。 「ほんとに行くの?」 暗がりにひるんで思わず聞いてしまった。 「あったり前じゃん。いやだったら帰っていいよ」 「いやいやいや、別にいやじゃないし。どこまで行くのかなと思って」 「とりあえず橋からは離れる。なるべく暗いところがいいんだけど」 「暗いとこ……」 「いや、なんども言うけど星見にきてるんだからね」 「わかってるけどさ、あんまいい気持ちはしないかな」 「そう?」 タカハシはあまり気にせず、どんどん暗い方へと歩いていく。 ここで帰るわけにもいかないので僕もついていく。 「あ!」 しばらく無言で歩いているとタカハシが声をあげる。 「流れ星」 「え、どこ?」 「もう流れた。これからどんどん増えてくると思うよ。急ごう」 タカハシの歩くスピードがあがる。 もともと歩くのが速いうえに、急いでいるのでけっこうなスピードだ。
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