朽ちたゴフェルと明ける空

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君の不機嫌を食らった日 焼けつく夕陽を背負った肩に 何かを感じて振り向いた 誰もいない 勘違いかと瞬きをして そして私は見てしまう 黒、黒、黒、黒―― 影と呼ぶにはあまりにも大きく さらにそれは動いている ゆったりとした所作で脈打ちながら 地面でどろどろと唸るそれ ひたひた質量を増しながら 不気味な静けさで波打ち潜む 君が久しぶりに笑った日 月明かりの眩しい夜更けに 遠くから音が迫り来る 何もない もう一度耳をそばだてて そして私は気づくのだ 轟、轟、轟、轟―― 幻聴にしてはあまりにリアルな おぞましいほどの音がする 不規則な調子でざわめいて 首元にぞわぞわと騒ぐ鳥肌 ざあざあ気配を強くしながら 辺りの冷気を埋め尽くす 君の視線を盗んだ日 君がネクタイを失敗した日 君の独り言を聞いた日 猛スピードで駆け巡る記憶に とうとう濁流が押し寄せる 漆黒の氾濫 強大な流れに追い詰められた そして息もできないくらい 君を、君に、君へ、君と―― あの日からずっとそこにある 今も変わらずここにいる 君に塗り替えられた視界が 途切れることなく渦を巻く 君と話せる最後の日 明け方の張り詰めた空気に 鋭い風が突き刺さる 冷たい光 胸の違和感を繰り返して そして私は笑わない 嘘、嘘、嘘、嘘―― 黒い背中も忙しい足音も 呼吸と鼓動をただただ煽る 重く塗り潰された空に きらきら光るビー玉色の朝焼け 予感をちりちり振り撒きながら 世界は今にも目を醒ます 壊れて消えたゴフェルを赦す
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