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「青木くん、ちょっと助けて、どうしましょう、ねえ青木くん」
外から大きな声が近づいてくるのに気づいた途端、頭にピンクのカールを巻いたライオンのような顔のおばさんがチャイムも鳴らさずに玄関を開けて、ぼくの部屋へ入って来た。
「ねえ青木くん、どうにかしてよ、これ」
と、早口でまくしたてる。右手には鍵の束。左手には何か紙きれを握っている。
まだ起きたてで、頭がぼんやりしていたけれど、目の前に立っているのが、勝手に鍵を開けて入って来た大家のおばさんで、枕元の時計から正午を少し過ぎたところだということだけはわかった。
「青木くん、あのねぇ、あんたいくら夜が遅い仕事だからって、ちゃんと朝は早く起きなきゃだめじゃない。もう昼よ、昼。いくら若いからってね、こんな生活続けていると円形脱毛症になっちゃうわよ。ほら、あんたの上の階に住んでいるOLのみっちゃん、実はそうらしいわよ、ストレスで。彼氏も心配しているみたい。あぁ、かわいそうにねぇ」
アパートの一階に住んでいるぼくは、上の階の綺麗なOLさんに憧れていただけに聞きたくもない残念な情報を聞いてしまった。こうなったら、今空いているちょうど隣りの部屋に、彼氏のいない可愛い女の子が入居してくることを祈ろう。
寝ぼけていた頭がはっきりしてきた。
「ところで、どうしたんですか?」
大家さんは一瞬はっとしたように顔の動きを一時停止させたかと思ったら、すぐに動き出し、「実はね」と言って紙きれを突きつけてきた。
「じゃがいも大安売り?」
それは、スーパーのチラシの切れはしだった。
「違うわよっ、裏、裏見て裏っ」
甲高い声を浴びせられ、慌てて裏返すと、
『探さないでください』
と鉛筆で書かれた文字が目に入った。殴り書きだろうか、どこかで見たことのあるような子供の字だった。
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