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という思いでいっぱいだったものの、探しに行くしかなかった。仕事柄、過保護で心配性な親というものを見慣れているため、珍しい光景とも言えない。
大家さんの息子は中学生になったばかり。ひとりっ子で、まだ反抗期らしき兆候は見えないけれど、年齢と環境からして、いつ噴火してもおかしくない休火山と言えるだろう。だとすれば、本当に家出ということもあり得るし、もしそうだとして、さらに何か事件に巻き込まれでもしていたらと思うと、目覚めのコーヒーすら飲んでいる時間が惜しい。メモを持ち、すぐに出かけることにした。
よく行くと言っていたゲームセンターや、マンガ喫茶、近所の公民館などを回ってみたけれど、どこにも見当たらない。不安になって、スマホの画面を覗くものの、大家さんからの着信があった気配もない。
『探さないでください』
メモにヒントが残されていないか、じっと見つめて、ひっくり返す。このチラシのスーパーにいる? いやそんなまさか……
「あっ」
何かにぶつかった。よろけて二歩後ずさる。前方から歩いてくる人に気づかなかった。
「すみません」
謝って相手を見ると、髪の長い女性のようだった。その場に座り込み、手元を見つめている。
「すみません、大丈夫ですかっ」
慌ててしまった。ケガでもさせていたらどうしようと思い、再び声をかけた。
動かない。
「あ、あの、手とか、ケガさせちゃいましたか? すみません。あの……」
やっぱり動かない。頭ひとつ動かさず、手元を見つめている。
妙な気がして、ぼくも彼女の手元に目をやった。
「あっ」
思わず声が出た。彼女が見つめていたのは、ぼくの持っていたメモだった。ぶつかった拍子に落としてしまったらしい。
「すみません。そのメモ、ぼくのです。知り合いの子がそのメモ残していなくなってしまって、探しているところで」
と、訊かれてもいないのに説明してしまう。
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