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「ディン・ディディンよ。誰しもがあなたのようには生きられない。砂漠で歩きながらラーメンを食べることはできない。ましてや、砂漠を自転車で走る定食屋のおやじと知り合いになることはない。まったくあなたが羨ましい。あなたや定食屋のおやじのように生きられない我々はどうすればいいのか?」
「旅人よ。あなたのその疑問や嫉妬こそが、あなたの生き様そのものだ。俺は迷いつつも、とりあえず歩いているだけだ。嫉妬できるほど他人に関心がないだけだ。定食屋のおやじとも偶然知り合っただけだ。そして、今日はたまたま晴れていて、運よく元気に歩いていられるだけだ。俺は、あなたのように人に疑問を投げかけることができない。疑問があっても歩いてごまかしているに過ぎない。迷ってもとりあえず歩いているに過ぎない。こんな砂漠で、俺のような人間を見つけて疑問を投げかけることができる、あなた自身の行動にもっと誇りを持っていいだろう」
なんという男だ、ディン・ディディン。私はプライドの高さや嫉妬深さを指摘され批判されることばかりだった。そんな私に誇りを持てと言い放つとは。
「ありがとう、ディン・ディディン。私の人生に誇りを持つことができるよ。しかし、私は砂漠を歩き疲れ、もう喉がカラカラだ。私はここで死ぬのか?おびえている」
「地平線の彼方を見よ。砂漠の月明りに照らされて宮殿のセットが見える。映画スターが夜の砂漠で撮影をやっているのだ。あそこなら水をもらえるだろう」
「なんとご都合主義な!こんなことがあるのか?」
「俺は歩き続けた。あなたは問い続けた。迷っても続けていればどこかにたどり着けるのだ」
(終)
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