生霊

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「さあ、上野先輩を苦しめている生霊に登場してもらいましょうか」 「生霊? ……それってもしかして……で、でも、彼女にそんな様子は……」  阿倍野の言葉に、何かを察した燿が驚いた顔をして呟く。 「なに、生霊とはその者が意識しなくとも無意識に飛ばしてしまうもの……どんなに理性で押さえているように見えても、人の嫉妬心というものは消せぬものです……さあ、邪なる生霊よ、その姿を我らの前に現せ! 破邪顕正、急急如律令(きゅうきゅうにょりつりょう)!」  そんな阿倍野に、阿倍野は後輩でありながらもまるで師匠のようにそう諭すと、手に中指と人差し指を立てた検印を結び、何やら呪文のようなものを厳しい口調でその口に唱える。 「……うう……うううう……」  すると時を置かずして、どこからか低く唸るような女性の声が聞こえてきて、やがて部屋を満たす白煙の中から、その煙が凝り固まるようにして一人の女性の姿が葵の枕元に浮かび上がる。 「きゃっ……」 「……まさか……そんな……」  その、この世ならざる人影を目にすると、葵は短い悲鳴を上げて恐れ慄き、他の者達は強い驚きに目を大きく見開いてその場に立ち尽くす。  白煙に薄らと浮かび上がったその人物は、燿の予想した通りの女性だった――。
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