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「――では、わたしがその生霊の正体だと?」
翌日の放課後、阿倍野は昨日、葵の部屋で見た生霊を飛ばしていた犯人――六条美夜を校舎の屋上に呼び出していた。
「言いがかりもいいところね。わたしにそんな覚えはさらさらないし、ま、確かに湊本くんとは一時期おつきあいしたこともあるけど、今はまったく未練も何もないんだから。色恋が原因というんなら、むしろ若村さんの方が怪しくなくって? ああ、御室さんって人もいたわね」
傾く日の光に染められたオレンジ色の広場の真ん中で、長く美しい髪を夕風になびかせながら、六条は阿倍野の言葉を冷静な声で全否定する。
「生霊は自分の意志とは関係なく飛ばしてしまうものですよ。いわば恨みや怒り、そういった自分ではどうしようもない負の感情が具現化したようなものです」
だが、相対する阿倍野の方も彼女のどこか威圧的な態度に怯むことなく、いつもの淡々とした口調で彼女の挙げる根拠を論破しようとする。
「それに、もう湊本先輩に未練がないというのは嘘ですね? あなたはまだ、密かに湊本先輩に対して思いを寄せられているんでしょう」
「フン、何を馬鹿なことを……仮にもしそうであれば、ライバルである上野さんのお見舞いになんかわざわざ行くと思うの? それも、同じくライバルの若村さんや桃園さんまで誘って」
「あれはむしろ、上野先輩はもちろん、ライバル達に対する当てつけでしょう。特に若村さんは現在、一番湊本先輩が心を寄せてる女子です。そんな二人を会わせれば、お互いにいい思いをするはずがありません」
阿倍野の推論を鼻で笑って斬り捨てる六条であるが、それを逆手にさらに阿倍野は追及の手を強める。
「そ、そんなことは…」
「そんなことは思ってもいない……そう自分に言い聞かせて、ずっと自分の本心を偽ってきたのですね。文化祭の出店の一件でも、本当は腹の底が煮えくり返るほど怒っていたのに、まるで気にしていないような態度を装って……」
俄かに動揺の色を六条はその瞳に宿し始めるが、その鋭い刃のような言霊を阿倍野はなおも紡ぎ続ける。
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