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その日の放課後、燿と登也の姿は天文部の部室内にあった。
「――なるほど。それで僕に用というわけですか……」
二人の話を聞き終わると、加茂に紹介された阿倍野遥という一年男子の天文部員は、先輩達の方を振り返ることもなく、机に置かれた真鍮製の天体望遠鏡を弄りながら、淡々とつまらなそうな声でそう答える。
「なあ、頼むよ阿倍野~。うちの部の来期の予算はおまえの手にかかってるんだよ~。この一件を解決してくれたらさぁ、おまえが前から欲しがってた天球儀、部費で買ってやるからさあ」
そうした淡白な後輩の態度に対し、加茂はあたふたと二人の方を気にしながら、なだめすかすように阿倍野に頼み込む。
この燿と登也、ぢつは生徒会委員をやっており、二人に貸しを作っておけば、部費を決める際に便宜を図ってくれるのではないかという下心が加茂にはあるのだ。
「じゃ、天球儀、約束ですよ…ハァ……上野葵さん、今年、学園クィーンに輝いた、湊本先輩の今の正式なカノジョさんですね…いや、最近は一年の御室月代さんとの話もありましたが、今も上野さんがカノジョということでよろしいですかね?」
一方の阿倍野も、一見、興味なさそうに見えながらもそのご褒美につられ、面倒臭そうに溜息を吐いてからようやく二人の方を振り返った。
「あ、ああ……いやあ、よく知ってるねえ。もしかして、二人のどちらかと顔見知りだったりするのかな?」
「誰でも知ってますよ。なにせ、湊本先輩は学園一の有名人ですからね。その手の話は一瞬にして全校生徒に広まります」
いきなり恋愛遍歴の現状を正確に指摘され、驚く燿を阿倍野は冷ややかな眼差しで見つめながら、やはりつまらなそうにそう答える。
「あ、アハハハ、そうなんだあ……」
「ま、とにかく本人を見てみないことには始まらない。上野さんの所へお見舞いに連れてってもらえますか?」
イヤミで言っているのかただの天然なのか? もう苦笑うしかない燿の反応も無視し、阿倍野は感情の読みとれない色素の薄い瞳を細めると、そう告げておもむろに立ち上がった――。
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