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「え? 僕……?」
「それではもう一つお尋ねしたいのですが、具合の悪くなったのはいつからです? あるいはその悪夢を見るようになられたのは?」
そして、ポカンとした顔を指さして尋ねる燿を無視し、再び葵の方を向いて尋ねた。
「はあ、そうですわね……よく憶えておりませんが、思い返すと文化祭の終わった後頃からでしょうか」
「文化祭の後……文化祭の時、何かトラブルのようなことはありませんでしたか? 特に女友達との間での」
やはり訝しげな顔をして答える葵に、阿倍野は少し考えてから、さらに重ねて問い質す。
「トラブル? ……いえ、特にそのようなことは……」
「文化祭……ああ、そうだ! あったじゃないか、トラブル!」
その質問に、思い当る節はないと首を横に振る葵だったが、代わって登也が突然、思い出したように声をあげた。
「いや、大したことじゃないんだけどさ。文化祭の出店で、クィーンになった葵ちゃんのファンクラブが出したハンバーガー屋と、お料理クラブが出した牛鍋屋が場所取りで争いになってさ。けっきょく、数にまかせてファンクラブが場所とっちゃったんだけど、生徒会への申請はお料理クラブの方が先に出してたことがわかってさ。その料理クラブの部長をかけもちであの六条さんがやってたんだけど、後で六条さんとこに葵ちゃんまで謝りに行く羽目になったんだよ」
「まあ、そん時は僕もついてったけど、六条さんはそんなのぜんぜん気にしないでって、すぐに許してくれたけどね……で、それが何か?」
登也の報告に、燿も補足説明を加えてから、まだその質問の意図がわからない様子で阿倍野に訊き返す。
「これで十中八九、間違いないですね……でも、一応、燻り出してみますか。ちょっと失礼……」
すると、阿倍野はそれに答える代わりに、かけていた鞄の中から香炉を取り出して、粉末状の香を入れて火を点けだした。
「おい、いったい何を始める気だ!?」
「これは芥子の実を潰して作った魔除けのお香です。ああ、種ですんで、法律で禁止されてるような幻覚作用のあるものではないんでご心配なく……」
突然の行動に、慌てて声を上げる加茂も無視し、阿倍野はそう説明しながら平然と作業を続ける……いつしか薄らと白い煙と、これまでに嗅んだことのないような、まったりと甘い香りが室内に充満した。
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