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「ね、これ、俺の何度めの浮気かわかる?」
「えーっとね」
目の前のジュンヤは少し考えて、指を折る。
「あ、27回め?」
「……正解」
「合ってた」
嬉しそうに口の端を上げる。
正気かよ。
「俺達、付き合って2年くらいだよな?」
「うん、そうだね」
「……普通さ、2年で恋人がこんなに浮気したら怒るもんじゃない?」
「怒る? なんで?」
きょとん、と眼鏡の奥で目を瞬かせる。
ジュンヤはいつもこうだ。
「いや、なんでって……自分がないがしろにされたっつーか、自分のもんが奪われる危機感つーかさ……裏切られたとか、思うだろ普通」
なんで、と言いたいのはこっちだ。
なんで浮気した方が説明してるんだ。
何なんだこの状況は。
手元のカプチーノの泡がしぼんで消えかかっているのを眺めて、俺はどうしようもなく惨めになった。
「そういうの、ないわけ?」
ジュンヤは首を傾げる。
「ナオは人間で意思があるから、オレの『もの』ではないし、オレのことが嫌いなわけじゃないんだよね? オレと会いたくないわけでもない」
「――そうだけど」
「だったらないがしろにはされてないし、奪われるのとも違うよね?」
「いやでも、付き合うってことはお互いがお互いの一番だって約束なんだから、ほかの奴と親しくしたらそれは約束違反てことになって……」
自分で何を言っているのかよくわからなくなってきた。
だいたい、この理屈ならどう考えても俺が「ごめんなさい」と謝るべき場面だ。
ところが、この恋人は「そんな約束、していないよ」と穏やかに言う。
咎めるでもなく、皮肉るでもない。
ジュンヤは怒らない。
怒ったところを見たことがない。
初めのころは、底抜けに「いい人」なのだと思っていた。
これは違うのではないか、と疑いを持ったのは、いつからだろう。
新しいカレシってどんな奴? と尋ねられて、聖人君子、とふざけて答えていたころが遥か昔に思える。
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