序章&第1話 求めしは勇敢なる者よ

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「ようこそ、流刑囚の諸君。ワシがお主らの面倒を見る事になったエルカじゃ。見ての通り、ダークエルフの老婆…非力が故、ワシが暴力を振るう様な事はせぬから安心せい。じゃからお主らもワシに暴力を振るう様な事だけは、せぬ様にな」 挨拶をするエルカ。優しく微笑むが、殆どの者が警戒心を解く事は無い。 この部屋に通されるまでに見てきた、拷問部屋や血生臭い監禁部屋。これから始まる己の危機に、相手が老婆だからと言って警戒を解く事など、まずあり得ないのだ。そう、ただ一人を除いて。 「ふむ…今回も中々の粒揃いじゃのう。放火に窃盗、詐欺師にスリ。よくもまあ、これだけの罪人を集めたものじゃ」 流刑囚の書類に記された名前と罪状を見て、溜息混じりに呟くエルカ。しかし、ペラペラとめくる書類の束の最後に目をやると、その手をピタリと止める。 羽賀(はが) 久礼(くれい) 年齢:19歳 罪状:馬鹿 罪状に放火や窃盗と書かれた流刑囚の中に、一人だけ『馬鹿』と書かれた者がいる。二年間、研究所にて多くの罪人を見てきたエルカではあったが、罪状が『馬鹿』と記されているのは初めてである。 「おい、この羽賀 久礼と申す者は?」 エルカに呼ばれて手を挙げたのは、九人の流刑囚の中で唯一、警戒心を持たずにマヌケな顔をしている若者であった。 流刑囚の中で一人だけ場違いな空気を漂わせる久礼。只者ならぬ男…と、言うよりも馬鹿者なる男と言ったところだろう。     
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