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一階は道路に面した薬剤店と奥に善治と絹江の住居という造りになっているが、築四十年ほどの鉄骨造の二階と三階は賃貸用の部屋が全部で四部屋ある。諒はアパートの住人用の外階段を上り、二階の奥に位置する自室へと入っていった。
手早くシャワーを済ませ、ドライヤーもそこそこの生乾きの髪を揺らし、元来た階段を下る。あと一歩でコンクリートの歩道へ足を踏み入れるというところで、動きが一瞬止まった。
店先で煙草を銜えて屯す二人の男の姿に、諒の身体は進むのを躊躇したのだ。揃いも揃って薄い髪色に光沢のある黒スーツ、そして磨かれた革靴。どう見ても堅気の客人ではなさそうだった。
善治と絹江にとってこの種の人間のあしらいなど、大した骨折りでもないことは承知していたが、それでも二人連れの向こうにちらりとベンツの黒光りを目にし、諒は警戒の歩を運び店の入口へと向かった。
黒服の片方は、カラーコンタクトに、大きくあけたシャツの胸元にはシルバーアクセ、もう片方は、ワックスで整えられたウェーブの髪と、指にはボリュームのあるシルバーリング。
(ホストか。どこの店だ?)
諒は煙草の煙に雑ざるアルコールの臭いを確認しながら、二人の脇を通り抜けた。
「お疲れのところ申し訳ないですね」
「瀬谷さんでしたか。店先を従業員と車で塞がれてしまうと、営業妨害になるのですが」
瀬谷が邪魔の入らぬよう他の客を牽制しているのを知って、諒はわざと指摘してみせた。
「なに、話が済んだらすぐにお暇しますよ、ねえ?」
カウンターの内側にいる善治へ、上品な笑顔を傾けているこの男が、自分に用があることも、一癖も二癖もあることも、熟知していた。
「諒、部屋の鍵だ」
諒は善治から鍵を受け取ると店の倉庫へと繋がる扉を開け、「どうぞ」と慇懃に瀬谷を八畳ほどの部屋へと案内した。
部屋には一面壁に造り付けた木製の棚があり、薬や雑貨のストックが保管されている。店内と同様のコンクリート三和土で、中央部分には、棚と同じ木製のテーブルが一つとその周りに椅子が四脚置かれていた。
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