ここはちょっと違う町

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 誰もが満足した顔でまたトラックの荷台に乗り込む。  今度は皆が一斉に帰るから、男女入り組んでいた。  僕が乗るトラックにマギーが乗り込んだ。  横に座ってきた。  おいおい、このティーンエイジャー、父親も乗っているのに大丈夫か?   ふと手にしていたグローブに気づいた。  返すの忘れてた。  立ち上がろうとしたとき、トラックが出発していた。  その勢いに尻餅をつく。  隣の車にマイクがいた。  グローブを振ると気づいてくれた。  車から顔を出す。 「マイクさん、グローブ、大事なグローブを返さなきゃ」 「いいよ。君が持ってて」  手を振っていた。  マイクは別の収容所に帰るのだ。  その車は先に走っていった。 「くれるってことかな」 「そうなんでしょ」  僕たちを乗せたトラックもスピードを上げる。  もう夕方になっている。  そこから三時間ほどかかる。  皆、最初は興奮で野球の話が尽きなかったが、一時間ほど揺られると静かになっていた。  マギ―が僕の肩にもたれかかって眠っていた。  夕べは遅くまで外に出ていたし、今朝は早くにおにぎりを作っていた。  疲れたのだろう。  他の人たちも誰かにもたれかかって眠っていた。  幸せそうだった。  こんなに座り心地の悪いトラックの荷台なのに。  大きな月が正面に見えた。 「月明かり、あなたを想う、その笑顔」  なぜかおっきお祖母ちゃんの俳句が心に浮かび、口に出していた。  その時、寝ているはずのマギーが微笑んだ気がした。
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