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母の、いつもの近所話を聞きながら、コーヒーメーカーに水を入れた。
母の電話が終わったら、ブランチを作ろうと思う。
ちらりと妃呂美を見た。
朝が弱い妃呂美の頭は毛布にくるまれているが、小麦色に焼けた健康的な足がもろに見えていた。
夕べのイチャイチャが僕の脳裏によみがえりそうになった。
が、今はまずい。
電話の向こうの母の声は、夕べの男女の行為を思い出させることにブレーキをかけていた。
母の近所ゴシップは一通り終わり、今度は親父のしでかしたどうでもいい失態の話に移った。
僕は戸棚を開けてごちゃごちゃとしている使いかけのスパイスの山を掘り起こす。
確か先月、妃呂美が買ってきてくれた珈琲の残りがあったはず。
女友達とハワイへ行き、コナコーヒーを買ってきてくれた。
妃呂美はスポーツジムの受付をしている。
僕は大学一年の時、同じ大学、卒業間近の妃呂美にナンパされた。
今は就職して金回りもいいし、僕なんかの都合を聞かないで、休みがとれるとどんどん勝手に旅行へ行く。
いつも一緒にいて欲しい的な同年代の女の子とちょっと違う、大人な女子。
でもいつも行ってきたっていう後日報告が多いから、それはそれでちょっと寂しい時もある。
母の話がまだまだ延々と続くと思っていた。
大事な要件を言うのを忘れて切ってしまうこともあったっけ。
だから、僕の意識は母の話より、コーヒーを何杯すくって入れたかの方に向いていた。
しかし、その手が止る。
えっ、今、母さんはなんて言った?
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