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窓きわの雑誌が並んでいるところに数人の学生がいた。
その中の三人が野球部の先輩。
そして、あいつもそこに立っていた。
皆が注目すると先輩たちは逃げるようにして店を出ていく。
しかし、あいつはそこから動かなかった。
そして、中年の女性もあいつを睨んでいた。
なにがあったんだ。
店長とバイト生がそっちへ行く。
僕も慌ててそっちへ向かった。
そこには野球のユニフォームが入っているカバンが広げられ、その中に漫画や週刊誌が数冊突っ込まれていた。
そのかばんを持って茫然としていたあいつ。
店長が厳しい顔つきで言った。
「このかばんは君のだね」
うなづく。
「お金、払ってないよね」
うなづく。
「どうしようと思ったんだ?」
あいつはただ、首を振るだけ。
僕の大事な親友だった。
その状況は誰が見てもあいつが万引きしようとしていたように見える。
けど、それを否定しないで怯えた目で見ていた。
「私がここへ来たら、この子たち、雑誌をカバンの中に入れていたの。逃げた子たちがカバンを開けさせていたんだと思うけど」
二年生が新入りのあいつに万引きさせようとしたんだ。
その中には僕たちの年齢では買ってはいけない写真付きの雑誌まで入っていた。
「ちょっと事務所まできてくれるかな」
店長は抑えた声であいつを引っ張っていった。
その姿はまるで犯罪者が連行されるよう。
同じ制服を着た僕にも目を向けた。怖かった。
「君、この子の友達? 仲間なのかっ」
そう言ってきた。
かなりきつい言い方で。
すごく怖かったんだ。
反射的に首を振っていた。
でもそれは決して友達ってことを否定したわけじゃない。
仲間ってこと、万引きをした仲間なのかっていうことを否定したつもりだった。
僕はあの時の牧野雄太の悲しそうな顔と悲痛な心の叫びをきいた気がした。
それが僕たちの友達の縁が切れた瞬間だったと思う。
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