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「理斗! 発情期だって?」
「最後まで話を聞いてから電話を切れ、理真。俺じゃなくて理央だ」
「……え? 理央ちゃんが? なんで理央ちゃん?」
もう一人の兄は理真というらしい。理斗とそっくりの顔立ちをしていた。
それよりも朔が気になったのは、理真も理斗も、恐らく理央本人も、理央の発情期を持て余していることだ。もしかして理央は特別体が弱いとか、発情期の厳密なコントロールが必要な体質なのだろうか。
「で、このアルファは何? 理央ちゃんに何したの?」
「指をさすな。大川くんは理央には何もしていない」
理真が朔を指さすのを理斗がたしなめる。実際には朔は理央に触れて舐めたり吸ったりと危うい行為をしてしまっていたが、理斗は言わないでくれた。
「ただ、理央が大川くんと一緒にいて、発情したのは気になるが」
内心ほっとしたのも束の間、理斗の言葉に息を飲む。理真が凄い形相で睨んでくるのも怖かった。
「まさか『運命の番』とか言い出すんじゃないよね? 冗談じゃない。理央ちゃんがどれだけ傷つくと思ってるんだよ!」
「とにかく理央を家に連れて帰ろう。大川くん、本当に悪かった。ありがとう。改めてお礼をさせてくれ」
「お礼なんていいです。俺が悪かったのなら余計に」
車に乗り込む御厨兄弟へ訴えてみるが、むっとした表情の理真とは対照的に理斗は「理央からもお礼を言わせたいしな」と微笑を浮かべる。
走り去った車を見つめる朔の心は理真が口にした『運命の番』のことでいっぱいになっていた。
指先に触れただけで発情した理央と、遮断薬を打ったのにきちんと効果が表れなかった朔。
もしかしたら最初に渡り廊下で理央を見つけた時から惹かれていたのも『運命の番』だったからなのだろうか。
朔にとって『運命の番』は特別な存在である。いつか出会った時には自分のすべてで愛すると決めて生きてきた。
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