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Ⅱ
翌日も、その翌日も朔は渡り廊下に行ったが、六号館わきの緑地に理央の姿はなかった。
オメガの発情期は一定期間継続するため、学校や会社では特別に休みを取ることが許されている。
あの時の理央は通常のオメガとは明らかに異なっていたので、早く顔を見て安心したいと思っていた朔の気持ちとは裏腹に、理央は二週間経っても大学に来なかった。
誰もいない小さな緑地を渡り廊下から見下ろした朔は表情を曇らせる。
ぎりぎりで襲いはしなかったが、理央を放せずに触りまくって舐め回した。そのショックで理央は大学に出て来られないのではないだろうか。
許してもらえるまで何度でも謝るべきだ。理央が自分のオメガでなくても、そうであるなら尚さら、きちんと謝りたかった。
朔は決めてしまえばすぐに行動に移す性格だ。
まずは構内でもう一度、理真か理斗に出会わなければならない。いきなり訪ねるのは失礼だし、そもそも自宅が何処なのか解らない。
理斗は四年生だと言っていたので講義も少ないだろう。頻繁には大学に来ていないかもしれないが、朔はできるだけ大学にいる時間を作っていろいろな場所を歩き回っていた。
「おーい、大川ー」
聞きなれた声に後ろから呼び止められて振り返ると、水野が走り寄ってくる。
「うろうろしすぎ。探すの大変だったぞ」
「悪い。ちょっと用事があって」
「御厨理央の兄貴って人にお前の居場所を訊かれたんだけど」
どうやら理真か理斗も朔と接触しようとしてくれているらしい。
「どっちのお兄さんだろう。真面目そうな人だった? ちょっと怖そうな人だった?」
「丁寧な人で怖くはなかったぜ?」
「それなら理斗さんかな」
探してくれているのが理斗のようで朔はほっとした。理斗は朔を警戒していても会話が成立するように振る舞ってくれるが、理真は朔への敵意を隠さないので少し苦手だ。
「この後、昼休みに六号館まで来てくれって言ってた」
「ありがとう」
スマートフォンで時間を確認している朔に、水野がおずおずと尋ねる。
「御厨理央と何かあったのか?」
「……まあ、ちょっと」
「ちょっとで兄貴まで出てくるっておかしいだろ。大丈夫なのか?」
水野が興味本位ではなく、本当に心配してくれているのは解っている。けれど朔は自分がしでかした事の顛末を話すことができなかった。
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