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 いくらバース性に対しての差別がなくても、自分は男としての品位に欠ける行為を理央に無理強いしそうになったのだ。  それに話をすれば理央の発情期についても触れなくてはならないので、プライバシーの面での問題も大きい。 「大丈夫。話せるようになったら必ず話すよ」  少し困ったような顔をした水野だったが、追及はせずに朔を励ますように背中を叩いた。 「つらかったり、もう駄目だと思ったら、話せることだけでも話せよ」 「うん」  水野と別れた朔は六号館へ向かう。まだ昼休み前だったが、六号館の前にはすでに理斗が来ていた。 「呼び出してすまない」 「いえ、俺も探していたので」  改めて並んでみると理斗は朔よりも頭ひとつ分ほど背が低い。薄手のTシャツにジャケットを羽織り、細身のパンツに身を包んでいて上品そうな雰囲気ではあるが、同年代の男性に比べると華奢だった。  あまりじろじろ眺めるのもよくないと思って、朔は早速話を切り出す。 「あの、理央さんの具合はどうですか?」 「やっぱり心配させてしまったんだな。まだ食欲はないみたいだが体は大丈夫だ」  理斗の台詞は「精神的には大丈夫ではない」ことを意味していた。思っていた通り、理央は朔がよほど怖かったのだろう。 「本当にすみません!」  深々と頭を下げると、理斗は慌てて朔の二の腕を掴んで顔を上げさせた。 「大川くんのせいじゃない。理央には元々不安定なところがあって、それが一気に出てしまっただけだから」 「謝りたいんですけど、会うのは無理でしょうか? ちゃんと遮断薬も使うし、触らないようにします」  朔の申し出に理斗は穏やかな笑みを浮かべた。 「俺も大川くんに理央と会ってもらいたいと思っていたんだ。先日のお礼も兼ねてね」 「お礼なんてとんでもないです。俺は謝れれば十分です」 「理央は大川くんのことを怒ってはいない。自分に癇癪起こしてるだけだ」  どういう意味だろうと朔は理斗に視線を送ったが、理斗は答えないまま言葉を続ける。 「理真が鬱陶しいかもしれないが、兄バカなだけだから放っておいてくれ」  なんとも言えない台詞に、朔はあいまいに返事をするしかなかった。
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