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 重厚な木製のドアを開いた先で、黒のスーツに身を固めた五十代と思しき男性に出迎えられた。 「ようこそいらっしゃいました」  戸惑う朔に理斗が「執事の染谷だ」と紹介してくれたが、自宅に執事がいること自体が驚きだ。 「大川様、お荷物を」  染谷が朔の荷物を受け取ろうとする。朔にしてみれば目上の男性に自分の荷物を持たせることなど失礼でしかない。大した荷物でもないし丁重に断った。 「両親は仕事でほとんど家にはいないから楽にしてくれ。お茶でも飲もうか」  理斗が案内してくれた部屋は応接室らしい。置かれている革張りのソファやテーブルは随所に繊細な細工が施されていて、おとぎ話に出てきそうな印象を受けた。 「好きなところにどうぞ」  二人がソファに腰を落ち着けたのを見計らったかのように、ドアが軽くノックされる。  入ってきたのはメイドと呼ばれる職業の人のようだった。執事の次はメイドなのかと、朔は頭を抱えたくなる。  ロング丈の黒いワンピースに控えめなフリルがあしらわれた白いエプロンを着けた女性は、ティーセットと焼き菓子をのせたワゴンを押して入ってきた。紅茶を淹れる彼女の動きは無駄がなくて美しい。部屋の中に紅茶の芳しい香りが漂った。 「理真の分は俺がやるから、理央にここへ来るよう言ってくれ」  そう理斗が言うとメイドは丁寧に頭を下げて部屋を出て行く。入れ違いにガレージから戻った理真が現れ、ソファにどかりと腰を下ろした。 「理斗、俺にも紅茶ちょうだい」 「淹れてやるから待ってろ。大川くん、冷めない内に飲むといい」  立ち上がった理斗は慣れた手つきで紅茶をカップに注ぐ。  朔は自分だけ飲むのはどうかと少し迷ったが、理斗が勧めてくれたことだしと思い直して「いただきます」とカップに口をつけた。  理斗からカップを受け取った理真もすぐに飲み始める。しばらく三人は無言で紅茶を飲んでいた。 「理央ちゃん呼んだんだよね?」 「ああ、だが遅い気がする」 「ちょっと見てくるわ」  カップを置いた理真が部屋を出ていく。 「理央さんは俺が来るって知ってるんですよね?」 「迷惑をかけたのは理央だからな」  会えると楽しみにしていたけれど、理央は自分が怖いはずだ。朔は無理に会うよりはゼリーを渡して帰った方がいいのではないかと考えていた。
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