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朔は自分の鞄を乱暴に漁り、オメガフェロモン遮断薬の簡易注射器を見つけ出すと、着ていたシャツをめくって腹部に突き立てる。既に痛みすら感じないほど昂ぶっているが薬が効くまで耐えきれれば、御厨理央を傷つけるようなことにはならないだろう。
早く薬が効いてくれと、半ば朦朧としながらも朔は腕の力を強くした。
薄茶の瞳を潤ませ、赤い顔で忙しなく熱い息を吐く理央は、朔に抱えられたまま震えながら「違う。嫌だ」と繰り返す。
理央のフェロモンはどんどん強くなっているようで、辺りにはむせ返るような甘い匂いが立ち込めた。
遮断薬が効き目を現すとされている時間を過ぎても一向に朔の興奮は治まらない。
これ以上は耐えきれそうになかった。
「……ごめん」
理央の耳に唇を寄せて謝ると、朔は白い首筋を舐め上げる。ちゅっと吸う度に理央の体が震えた。
柔らかく髪をとき、優しく頭や肩を撫でて、唇で様々なところに触れていく。
「あ、あ……っ。嫌だ」
「ごめんね、ごめん。薬が効くまで少し我慢して」
誰か俺を殴って止めてくれと、どれだけ強く思っても朔は白く細い首筋へ舌を這わせ、肌触りのよい薄手のニットの裾から右手を忍ばせるのを止めることができない。
自分が歯止めの効かない獣のようになったことが、朔には信じられなかった。
理央を犯すことしか考えられない。
それでも理央が嫌だと言うから、そして朔自身に強い願いがあるから、必死にこらえた。
朔の唇と指先での愛撫にとうとう理央が泣き出してしまったとき、六号館の裏手からツツジをかき分け、一人の青年が絡み合う朔と理央の前に転がるように飛び出してきた。
「理央から離れろ!」
青年は理央から朔を引きはがし、頬に拳を叩き入れる。まともに食らった朔はその場に膝をついた。
「理斗兄……?」
泣きじゃくっていた理央が、自分を助けた青年の名を弱々しく呼んだ。
「お前、アルファか! 理央に何してる!」
理斗と呼ばれた青年は御厨理央を抱きかかえて朔を睨みつけた。あまりの視線の冷たさに朔も少しずつ冷静さを取り戻す。
「すみません。その人、発情期です。俺が遮断薬を使ったけど効きが悪くて……ごめんなさい」
「発情期だと?」
「本当にすみません」
朔の傍らに転がるオメガフェロモン遮断薬の注射器を見つけた理斗は状況を理解してくれたようだ。
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