予期せぬ再会

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「どうぞ」  私は、三浦さんに促されるままタクシーの後部座席に座った。彼はすぐには立ち去らず、車のルーフに手を置きタクシーの中を覗きこむ。 「三浦さん?」 「あの日のあなたはとても悲しそうな顔をしていたけれど、あの涙の理由は一つではないように思ったんです。……あなたが誰かを想う気持ちや、人には見せない葛藤が俺には透けて見えた気がした。あなたの、本当の姿が」 「……え?」  彼はあの日の涙に、いったいどんな私を見たのだろう。  彼が感じた本当の姿を、私も知りたい。それは、私の中で突然芽生えた欲求だった。 「そして……そんなあなたを綺麗だと思ったんです。だから俺は、あの時のあなたを絵に残したいと思った」 「お客さん、後ろが支えてるんで出しますよ」  私の返事を待つことなく、運転手は後部座席のドアを閉めた。窓の向こうで三浦さんが私に軽く頭を下げる。  それに返す間もなく、タクシーは夜の街を走り出した。  私が振り返った時には、三浦さんはもうどこにもいなかった。
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