弊害

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「い、郁郎君?」 急にどうしたんだろう。 ビックリして郁郎君を見上げると、彼はなぜか真剣な目で私を見つめていた。 『許せ、雪音』 小声でそう言ったかと思ったら、郁郎君は私の頬を両手で包み込んで。 自分の唇を、私の唇に押し付けた。 「んんっ!」 やだ。 うそでしょ? なんでこんな……っ。 健斗君だって見てるのに……! 慌てて離れようと腕に力を入れたけど、いつの間にか郁郎君に後頭部と背中をガッチリ抱きかかえられていて、逃げるなんて出来そうになかった。 重なった唇は角度を変えながら、次第に深さを増していって。 私の少し開いた唇の隙間から郁郎君の柔らかい舌が潜り込み、私の歯列を優しくなぞった後、そっと絡み付いてきた。 そのキスがあまりに甘く優しくて。 気がつけば、郁郎君の腕にぎゅっとしがみついていた。 そうしないと、もう立っていられそうになかったから。 なんだか頭がボーッとして、ずっと身体がフワフワしてる。 時間の感覚も、ここがどこなのかもわからなくなるほど。 ゆっくりと唇が離れていく感覚がしてうっすらと目を開けたら、 せつなそうな顔の郁郎君と目が合った。 その顔を見ていたら、なぜか胸の奥が苦しくて。 なんだか目を開けていられなくて再び瞼を下ろすと、 郁郎君に力強く抱きしめられた。
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