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「な、にそれ……。いっくん、どうして……?」
鼻声気味の麻衣ちゃんの声が聞こえる。
郁郎君の胸に埋めていた顔をゆっくり起こしたら、目に涙をいっぱい溜めて顔を真っ赤にした麻衣ちゃんの姿が見えた。
その隣では健斗君が、複雑そうな顔で私達のことを見ていた。
「ごめん、麻衣。
夏休みにお前が俺の部屋に突然来た時、雪音が部屋にいただろう?
あれさ……、俺の彼女だから泊まりに来てたんだ」
「えっ?」
顔を強張らせる麻衣ちゃん。
郁郎君、嘘をついているんだ……。
「あの時、お前が変に取り乱してもいけないと思って。
それで咄嗟に、雪音は健斗の彼女だなんて嘘をついたんだ」
「嘘……?
おねーさんがおにーさんの彼女だっていうのは、嘘だったの?」
麻衣ちゃんの問いに、郁郎君がコクンと頷く。
「今までハッキリした態度をとらなくて悪かった。
お前の家には昔から世話になってるし、強く言えなかったんだ。
ごめんな。
俺、雪音が好きなんだ。
本気で好きだから、もう誰も入り込めない。
だから、俺のことは諦めろ。
お前は、お前だけを好きになってくれる男を捜せ」
「いっくん……」
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