いるにはいるんですけどね

4/24
前へ
/402ページ
次へ
代償とは、目的を果たすために何かを犠牲にしたり、失ったりするものだと言う。 大きなものを得れば、それと引き換えに何かを差し出さなければならない。 高い人気や多くの富を得た芸能人が、その分自由な時間やプライバシーを失うように。 私の恋愛も、我慢や忍耐なしには成り立たないのだ。 糸田(いとだ)健斗(けんと)の彼女という肩書きを得た私は、普通の大学生のカップルなら当たり前に手にしている安心感がまるでない。 茜には、幾度となく別れた方がいいと言われてきた。 高校時代の友人達も、みんな口を揃えてやめなよと言う。 でも、私は彼が好きだ。 去年の大学祭のステージで踊っていた彼に、心を根こそぎ持っていかれてしまったんだ。 もちろんそれは、私に限ってのことじゃなかった。 彼のダンスを見ていた多くの女の子達は、彼に釘付けだった。 それ以前からも、彼の存在は大学内でもかなり目を引いていたと聞く。 あれだけの甘いマスクなら、女の子からのアプローチが相当あったに違いないけど。 そんな彼が選んだのはなぜか、 いたって平凡な私だった。
/402ページ

最初のコメントを投稿しよう!

416人が本棚に入れています
本棚に追加