ふわふわサイキック・ガール

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 夢恵と白川が校門に向かって歩いている。先ほどのように、隣には並ばずに半歩ずれながらゆっくりと歩を進めている。聞こえはしないが、会話が弾んでいるようだ。白川の身振り手振りが大きくなり、その度に夢恵が幸せそうに笑う。  紀里は無表情でそれを見ていた。  背後では机や椅子がゆっくりと浮かび上がっている。黒板消しやチョークはもちろん、作り付けかと思われていた本棚までも浮遊している。  ただ外の二人を眺める紀里の顔を、電源コードの外れた黒板消しクリーナーがすうっと横切って行った。そして歩く二人の上空に、狙い定めたかのようにぴたりと止まった。  紀里の気持ち一つで、この黒板消しクリーナーは落ちるだろう――どちらかの頭に。  夢恵は読み取るだろうか。この距離で、紀里の心を。 「好きな人……」  黒板消しクリーナーは暫し二人を追跡した後、音も立てずに窓から教室へと入り、元の位置に戻っていった。  紀里は日差しの痛さに、窓にかけた手を引っ込めた。  窓は速やかに閉められた。クレセント錠もかかる。浮いていた机や椅子が静かに元の配置に戻る。大嫌いな蒸し暑い教室のできあがりだ。  紀里は満足したように一つ頷いて、昇降口へと向かった。
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