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文はそこで終わっており、追伸もなければ差出人の名前もない。気持ちが届かなくていい、と書いてあるが、本当にそう思っているから、あえて書かなかったのかもしれない。手書きではなく、わざわざゴシックで書かれているところも、それを裏付けている。
「ふ~ん。俺の近くにいる人か……誰だ? ……まぁいいか」
つぶやくと、海斗が苦笑しながら首を振った。
「いやいや、もっと気にしようよ。勇気を出してこれを机に入れたんだろうに、それでも相手にされなかったらかわいそうだよ。近くにいるって書いてあるし、面倒がらずに考えようよ。このままじゃ誰からもらったのかわからないから、お返しができないでしょ?」
そういえばホワイトデーのことを完全に忘れていた。お返しのことを考えると面倒だな。誰だか知らないが、余計なことをしてくれたものだ。もらいっぱなしは気が悪い。やはり犯人を探さないといけないな。
「……でも、思い当たる相手がいない」
「だから、気になるでしょ?」
「海斗は気になるのか?」
海斗はやはり笑顔のまま、コクリコクリとうなずいた。その顔にやっぱり腹が立った。しかし、ここで意固地になると、後々この件を話題にされて、かえって面倒だ。
「お前が気になるなら仕方ない。探してみるか」
「わーい! さすが誠花!」
海斗はいい暇つぶしができたとでも言わんばかりに、諸手をあげて喜んだ。
さて、犯人探しを始めることになったのはいいが、その前段階の容疑者がいない。捜索はそこから始めるべきだろう。
「さっきも言ったけど、俺にはこれをもらう心当たりがない」
「またまた。とぼけちゃって。本当はたくさん心当たりがあるクセに。なんでも控えめなのはいいけれど、謙遜が過ぎると反感を買うよ?」
素直に言っているだけなのだが、海斗は受け入れてくれない。
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