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たしかに、俺は普通に女子と交流がある。休憩時間に話をすることもあるし、休日を女友達と過ごす時もある。
だが、メッセージカードには「あなたのそばにいます」と書かれている。俺が心当たりがないと言っているのは、この言葉に該当する女子がいないからだ。特定の女子と親密な関係になった覚えはない。
まぁ、距離なんて人それぞれ感じ方が違うのだろうが、少なくとも俺の感覚では思い至らない。
なら、俺以外の人の感覚に頼るしかない。
「海斗は誰が犯人だと思うんだ? とぼけてるって言うのは、俺にチョコを渡しそうな人に心当たりがあるからだろ?」
この問いかけは、答えを期待したものではなかった。答えられない質問をすることで、海斗が困ればいいと思ったのだ。
けれど、人を困らせるのは海斗の方が優れていた。
「容疑者なんてたくさんいるよ。誠花の人間関係を知っていれば、なにも考えなくても何人か思い浮かぶよ」
「信じられないな。いい加減ふざけるのはやめろ。俺は真剣にチョコをくれた人を探してるんだぞ?」
威圧すると、さすがの海斗もあせったようで、手をばたばたと振った。
「ちょっと、怒らないでよ。からかったことは謝るよ」
「嘘でもいいから、からかったことを否定しろよ」
「タダでさえ信用を失いかけてるのに、無闇に嘘をつくことはないさ。からかったことは認める。けれど、嘘はついていない」
さっきのあせった表情が嘘のように、もう薄っぺらな笑みを取り戻している。
嘘はついていない。その言葉が嘘かどうか、矛盾が生まれている以上は証明できない。だが、俺の経験上、海斗はあまり嘘をつかない。
海斗は嘘をつくことなく、相手を錯誤させるのが得意なのだ。まるで詐欺師のようなやつで、嘘つきよりもタチが悪い。
そんなやつだからこそ、やはり俺にはない考えを持っている。だから、いつも騙されたと思って海斗の助言を聞くのだ。
海斗もそれは心得ている。自分の考えを述べた。
「容疑者はたくさんいるけど、濃厚なのは一人だね。あの人さ」
海斗は無礼にも、容疑者を指さしたのだった。
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