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「カイ! 勝手に一人で散歩するな。ヤンがハゲかけてたぞ」
「あー悪い悪い」
レンティア総領である父親に黒髪を引っ張られながら、カイは詫びを言う。
「とにかく、無事でよかった。カイが御禁制の場所にでも迷い込んで罰を受けたらどうしようと、本当に気がきじゃなかった」
幼馴染であり、遊び仲間であり、カイのお守役もかねているヤンが、人の好さそうな顔にホッとした表情を浮かべている。
「悪戯息子。…気のいい幼馴染にさんざん心配させといて、おまえ、なんだかご機嫌じゃないか?」
「今日さ、なんか、可愛いコに逢ったんだ。…いろいろ大変そうだったけど」
父親とヤンと東の国のお茶を飲みながら、カイは、子供のような母親を案じていた、金髪のちいさなルティシアの皇子を思い出す。
「気に入った姫がいたのか? ルティシアには、やたらと姫がいるせいか、一人くらい、カイの嫁さんに持って帰ってもらいたくて仕方ないみたいだぞ?」
「海賊王子の嫁に? オレは王子じゃないのにな? 将来の保証もない、ただの海賊の嫁にされたら、気の毒なお姫様は卒倒しちゃうよなー」
「次代のレンティアの妃を期待してるんだろうよ。うちのやんちゃ坊主は、レンティアの外でも、妙に人気があるから」
自分の息子を冷やかすように、レンティア総領カイは笑った。
「とらぬ狸のなんとやら…。先物買いしすぎると後悔するよなー」
甘い菓子を口に放り込みながら、カイは呑気に返事している。
カイがイシュルに説明したように、レンティアには王はいない。
レンティアというのは、王を持たぬ独立海洋都市国家である。
海賊王国と歌われるのは、もともとレンティアが海賊を生業としていた為であるが、現世で、レンティア艦隊といえば、各国が契約を結びたがる海の傭兵艦隊として知られている。
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